2020/2/20 自己信頼
「うつる」と言われる病気になって
今年に入って感染が拡大しているコロナウイルスのニュースを見るたびに、胸が痛くなる。
隔離された人々。
検査が陰性とわかった後でも「職場や地域に戻ると差別されるのでは」という不安を話す方。
感染がわかった方の行動経路が判明するたびに、「ウィルスがうつるの、こわいよね」「電車の××線はやばいんじゃない?」というみんなの世間話。
遠い昔のことだけど、私はいわゆる「うつる」と言われて敬遠される病気になったことがある。
治療して完治すれば他者に感染することはない病気なのだが、そのような「正しい情報」は当時あまり知られておらず、病名をきいただけでサッと人が遠ざかるということが何度もあった。
「ずいぶん長い入院だったね。なんの病気だったの?」
と、当時の友人にきかれて、
正直に病名と、完治したから感染はしないことを伝えたところ、
友人は「えっ…」と一言放ったまま険しい表情に豹変し、
そのとき連れていた彼女の子どもをとっさに私から遠ざけた。
詳しい情報もない時代でのこと、彼女も感染する恐怖を感じて怖かったのだろう。
しかし、そのときはショックのあまり体が凍り付いて何も言えず、涙すら出なかった。
もう20年以上も前のことなのに、そのシーンは何度でも、鮮明に思い出すことができる。
それから私は、自分の病気を隠すようになった。
自分の正直な気持ちも、なるべく言わないようにしてきた。
本当の自分を知られたら、人は自分から離れていくにちがいない、と思うようにもなった。
それからずいぶん時間もたち、新しい友人もできたし、恋もした。
でも、私は自分のことが嫌いだった。
その後はじめてアサーティブというものに出会ったとき、「人はみな、敬意をもって扱われる権利があるのだ」ということを知り、全身を貫くような衝撃を受けた。
「私は、どんな自分であったとしても、自分のことを大切にしていいのだ」
「私は、ひとりの人間として、尊厳を持って扱われることを求めていいのだ」
それをはじめて知ったとき、20年近くも自分の内側で封じ込めていた涙が一気にあふれ出て、しばらく止められなかった。
「うつる」と言われる病気になった自分を、はじめてゆるすことができるようになった。
そして不思議なことに、病気をきっかけに遠ざかって行った友人たちのことも、少しずつ心の中でゆるせるようになってきた。
人は、間違うこともあるのだから。
今、ウイルスに感染して苦しんでいる方々、そしてそのご家族の方々が、地域や職場で「人間として尊厳をもって」扱われますように。
そして闘病されているすべての方に、エールを送ります。