2009/8/19 講座から

一人前には10年かかる

私が通っている鍼灸院の治療師さんは、大変厳しい院長先生のもとで毎日切磋琢磨して勉強している若手の先生です。早朝の治療に行くと、道の外まで気合の入った朝礼の声が聞こえてきます。まるで修行道場のようですね、と話すと、「そうなんですよ」という答えが返ってきました。

武道と同じように、人に向き合う仕事は自分自身に向き合う仕事なのでしょう。
「"一人前"になるには、何年くらいかかるんですか」と尋ねると、
「10年ですね。ボクはまだまだだとよく院長に怒られます」と答えてくれました。

一人前の治療師になるには、毎日修行をしながら自我を捨てて、頭でっかちの自分を変えていかないといけない。それが、現在彼が学んでいる最大の課題なのだそうです。

自分が成長するということは、今の器(うつわ)をいったん空にして、そして空になったところに新しい水を注ぐ。そして、そこでまた謙虚に学んで水を入れる。そのくり返しだと彼は言います。

学ぶということは自分の殻を破って、謙虚に自分を変えていくということ。成長とは、その積み重ねでしかない。その話に、私は深くうなずいてしまいました。

2週間前に、大阪で10ヶ月行った「アサーティブネストレーナー養成講座」が終わりました。10ヶ月たってやっと「スタート地点」に立った受講生たちは、これから本当に現場で学び始めます。アサーティブに生きるということを、くり返し、くり返し、日常の中でチャレンジしながら、アサーティブで「ある」ということと、アサーティブに「行う」ということを自分の身につけていく修行がこれから始まります。

私たちの講座にも最近は、「すぐに学べる短期間の講座はありませんか」「1日で応用講座まで勉強する効率的な方法はありますか」というお問い合わせをいただきます。何でも効率的に、すぐに、身につけ学べる方法がもてはやされているようですが、アサーティブネスという思想と実践を身につけるには、本当に自分のこれまでのありようそのものと向き合いながら、人間関係を一つひとつ考えていく、時間のかかるプロセスなのです。

人間関係も自分の成長も、効率性で計ることはできません。「すぐに」ではなく、「10年かけて一人前」というスパンで、じっくりと自分につき合い人につき合う自分でありたいと思う夏休みでした。