2009/10/8 汐生の思い
心の姿勢を正すこと
マルコムグラッドウェルの『Blink』(日本語版『第1感 「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』)の中に、大変興味深い一文があります。それは、アメリカで医療訴訟を起こされるドクターと起こされないドクターの違いについて説明した一文です。
医療訴訟を2度以上起こされたドクターと、全く起こされたことのないドクターの違いは一体何か。それは、診察の内容やアドバイス、専門分野に関係なく、最終的に患者を尊重しているかどうかの心の姿勢によるのだそうです。つまり、患者を尊重しているドクターは、医療訴訟を起こされる確立がずっと少ないということです。
心の姿勢が一番現れるのは、態度です。弱い立場の患者は、ドクターの態度や声の調子から、心のまなざしを敏感に感じ取ります。「弱い」立場だからこそ、「強い」相手の態度をより敏感に感じるのかもしれません。グラッドウェルは、その心の態度がもっとも顕著になるのが「声のトーン」だといいます。
声の響きで、目の前の相手をどのように見ているかが手に取るようにわかる---。これについて、最近実際に体験することがありました。あることで病院に駆け込まなければならない事態が生じ、出張先と戻ってから、2,3か所のクリニックを訪れました。
それぞれのドクターは、年齢のころ50代くらいの男性ばかりでしたが、「劇的に」と言えるほど違っていました。出張先で診察を受けたドクターには、まるで「物」のように扱われた感覚を覚えました。戻ってから診察を受けたドクターには、対等な「人間」として扱われた感覚を覚えました。
グラッドウェルは、そうしたドクターの心の中の態度は、15秒以内でわかるといいます。確かに、話し始めてものの5分とたたないうちに、私自身も強く感じたことでした。もちろんそれぞれのドクターの経験値や専門分野を疑うことはありません。おそらくとても優秀な方々ばかりなのでしょうが、普段以上に弱っていた私にとっては、ドクターの態度が言葉以上の「ことば」となって耳に届いてきたのでした。
社会の中には、必ず力関係の「上」と「下」が存在します。そうした立場の違う人たちが向き合って話をするとき、「下」の側の人は相手の心を敏感に読み取ります。例えば、子どもは大人の心を、介護を受ける側は介護する側の心のありようを、部下は上司の心を敏感に感じとります。
だからこそ、「対等である」というのは本当に難しい。「上」に立つ人が権威を振りかざすことなく「上の立場から」「同じ人間として対等に」向き合うということをどのように実践できるのか。これについて、私自身も引き続き考えていく必要がありそうです。