2010/6/21 講座から
若手の自己主張能力
ビジネスの現場で若手のコミュニケーションスキルアップにかかわっていると、彼らの現状のスキルと、求められているスキルのギャップの大きさに同情することがあります。
子どものころから手とり足とり大切に育てられてきたからなのでしょう、若い世代のコミュニケーションの課題の多くは、自分の主張ができないことにあります。どこかで自分の要望は相手が汲み取ってくれると思い込んでいる。「お腹がすいた」と言えば、そばにいる大人が、「リンゴがいいの?みかんがいいの?」と言葉を継いでくれて、「リンゴがいい」と答えるようなやり取り。上司に「仕事が進まないんです」と言えば、「どれくらい終わったの?」「いつ終わるの?」「誰に頼めそう?」「どうしたらいいと思う?」と、質問してもらって、それぞれの質問に一つひとつ答える、みたいな。
相手が自分の言いたいことを引き取って会話を繋いでくれるという、暗黙の期待とでもいうのでしょうか。
おそらく、十年ほど前まではそれでもよかったのかもしれません。上司に黙って従って、まずは仕事を覚える、つべこべ言わずにさっさとやる。そうした中で、時間をかけて若手も会社の中で「一人前」になるという、大人になるまでの時間の余裕がありました。日本には相手の心を汲み取る「以心伝心」の精神を大切にしてきた歴史がありますし、終身雇用制の仕組みとあいまって、長い時間をかけて会社の中で「人材育成」する風土があったわけです。
しかしながら、価値観の多様化、社会や組織の構造の変化に伴い、"ダイバシティー"社会に向かって、会社に入った段階から「一人前」の大人としてきちんと対等に主張できるようになることが求められるようになっています。ゆっくり人材育成する余裕はなくなり、フラットなチーム仕事が増えていく中、中途採用スタッフや専門的な派遣スタッフの中で、若手もチームの一員として早いうちから自己主張する必要が高くなっているのです。
その意味では、のんびりと子ども時代を過ごしたゆとり世代の若者が、ビジネスに入って即一人前のコミュニケーターとなることを期待されるというのは、これからの若手にとってシビアな時代になってきたなあと痛感します。
若手人口が少なくなっていくに従って、若手が早く「一人前」になるプレッシャーは高くなっていくでしょう。若手が自分の意見を考え、そしてしっかりと相手に伝える能力を、周りの大人が丁寧に指導していく必要は、今後ますます高まっていくに違いありません。