2011/8/3 汐生の思い
口を開く「前に」
アサーティブなコミュニケーションでは、相手をとんでもない「悪者」や「敵」と定めて、「やっつけてやろう」「非を認めさせてやろう」というところから、話し合いを始めることはしません。自分と相手との間に存在している問題を、一緒に解決するための「協力者」として見ることから、対話を始めます。
相手を「悪者」や「敵」として見ないということは、どういうことなのでしょうか。
対立するものがやってきたときの、動物の最初のリアクション(反応)は、反撃です。自分のテリトリーに入ってくるものは、まずは威嚇し攻撃します。闘争本能ですね。もう一つは、尻尾をまいて逃げることです。これは防衛本能です。動物のサバイバルの本能として、とても重要なものです。
しかし、複雑な利害関係のからむ人間関係の中で、攻撃か逃げることばかりを続けていては、本当の問題解決にはなっていきません。闘いでも逃げるでもない、「話し合い」という方法とプロセスを経て、問題解決をする力があるのが人間の特性だからです。
話し合いの中でも、アサーティブでは、行動や振る舞いを「選ぶ」時に、相手も自分も責めない第三の方法を選びます。「あなたが悪い」でも「自分が悪い」でもなく、自分と相手の間にある「本当の問題は何か」、そして、その問題を一緒にどう解決していけるだろうかというスタンスで、話し始めるのです。
問題は、このスタンスを明確に意識しないままで「アサーティブな」スキルだけを使って伝えてしまうことです。「あなたが悪くて、自分は絶対に正しい。だからあなたが全部変わるべきだ」というスタンスのまま、「事実」→「感情」→「要望」と伝えてしまうと、冷静に優しく相手の首をしめてしまう、非常に攻撃的な伝え方になってしまうのです。
一番大事になるのは、「口を開く前に」自分に問うてみることでしょう。相手を悪者にしていないだろうか、自分自身を正当化していないか、相手が100%悪くて自分は100%正しい、というスタンスに立ってはいないか。それ自体を、話し合いの「前に」検証することなのです。
不思議なことに、そうした「スタンス」、別の言葉でいえば「心の中の姿勢」は、言葉以上に相手に伝わってしまいます。相手を対等に見ているか、誠実に向き合っているのか、本当に問題を解決しようと真摯に努力しようとしているか。
言葉の背景にある、わたしたちの「まなざし」は、特に力関係で"弱い"立場にある人にはよく見えてしまうということに対しては、意識的になるといいかもしれません。
この夏休みにもう一度、アサーティブの原点に立ち戻るということを、考えてみたいと思います。