2013/6/5 汐生の思い
Noを伝える時には、自分のYesから出発すること
最近読み始めた本に、『The Power of a Positive No』(William Ury)(邦訳は『最強 ハーバード流交渉術―仕事が100倍うまくいくNoの言い方』)があります。
著者の過去2冊の本は、交渉術に係る文献として数年前に読みましたが、本書は対等に交渉をするために、まずは個人が身につけておく必要のあるコミュニケーションの力:相手を尊重しながら自分のNoを適切に伝える力、についてです。これがまさにアサーティブなNoなのですね。読みながらなんだかワクワクしてきました。
中でも、「No」を伝える時には、まずは自分自身の「Yes」をしっかりの認識する必要があるというくだりには、まったくその通りだと思わずひざをたたいてしまいました。
私たちはなぜ、何のために「No」を伝えるのでしょうか。
アサーティブトレーニングの講座でも、相手の〇〇にノーと言いたい、というように、まずは相手ありき、というノーの事例がたくさん出てきます。しかしながら、相手の行動が自分のノーの理由だとすると、結局は相手に振り回されてしまうことになるのですね。
自分の「ノー」を伝えるためには、まずは自分の中の「イエス」を確認することが出発点になります。自分のイエスとは、言い換えれば自分自身が何を大事にしているのかということ。自分の優先順位は何かがわかっていること。だからこそ、明確な境界線と自分の軸をもった、アサーティブなノーを伝えることができるのですね。
自分にとっての一番大切にしているニーズ、価値観、自分の人生のコアの地点から、「ノー」を明確に伝える、とは、どういうことなのでしょうか。
その象徴的な話が、ネルソン・マンデラ氏です。「彼はアパルトヘイト反対の道を歩いていたのではない」と著者は述べています。「自由に向かっての道」を歩いていたのだと。彼が深くコミットしていた価値とは、自分の自由と仲間の自由、そして敵として対峙している相手にとっての自由、だったのです。だからこそ、多くの人々の共感を得ることができ、共に闘う人たちが集ったのでしょう。ノーの根底に愛情や希望、権利や自由などがあれば、そのノーに対しての共感を得ることができるのです。
私にとってのイエスは、例えば何でしょうか。今は食事会等のお誘いは全てお断りしているのですが、そこでの自分のイエスは、「小さな子どもたちと一緒にいる時間を最大限確保したい」ということです。それを今は優先順位の一番上に置いているからこそ、泊りの出張や夜のおつき合いをお断り、ということになるのですね。
相手に対する怒りや反発、復讐心や罪悪感からノーを発動させるのではなく、自分自身の大事にしている価値からのノーを出発点とすること。ノーを伝える前に、自分は本当に何を望み、何を大事にしているのかを明確にしてみること。その上で、自分の価値を相手に伝えて、ノーの交渉に臨む。それが、相手に対する思いやりをもった、対等なアサーティブなノーになっていくのだろうと思います。
ノーを言う前に、自分の中の「イエス」を探ってみましょう。自分が大事にしているものや関係を、まずは明確にして、その上で前向きなノーを伝えられるようになっていけたらと思います。