2013/12/6 講座から

最後まで誇りを失わない

講座が続いた秋の時期、心に残るエピソードや事例にたくさん出会いました。講座の中では、自分自身が葛藤している課題に真摯に取り組み、アサーティブに対話を進めていこうとしている姿に触れることがあり、心打たれることがよくあります。

中でも心に残ったのは、「最後まで自分の誇りを失うことなく立ち去る」というAさんの事例でした。ご本人の許可をいただき、ここで少しご紹介させていただこうと思います。

長年勤務していた会社の希望退職を上司から強く進められ、悩んだ結果応募したというAさん。希望退職を進めた部長に、最終的に自分の決断を伝えた時、部長からは「締め切りを過ぎているじゃないか」という思わぬ批判を受けました。その言葉に、Aさんは激しく動揺したと言います。

自分が職場を去るという苦渋の決断を上司に伝える時、明らかに自分の方が立場も力も弱く、自分は下に見られているということがわかる時、そんな時でも、話し合いをあきらめずに最後までアサーティブでいるということは、一体どういうことなのでしょうか。

力関係の圧倒的に違う相手と向き合い、それでも対等であることを忘れることなく振る舞うためには、本当に本当に、自分の「内側の力」が試されます。

ロールプレイで取り組んだのは、そのような状況の中で、最後まで自分の誇りを失うことなく立ち去る、ということでした。

部長の言葉に傷つき、心の中で自分を責めながら言葉を飲み込むこともできます。あるいは部長の言葉にカチンと来て、「じゃあ、いいです!」と反発することもできます。でもAさんはどちらでもない方法を選ぶことにしました。つまり、そのような状況の中でも、自分の気持ちを誠実に伝えて、卑屈になるのでもなく反発するのでもなく、自分の誇りを失うことなくその場を立ち去る、という選択肢でした。

「自分もギリギリまで悩んで、悩んで、苦しい思いをしてこの結論に至りました」。
その気持ちを、相手を責めることなく静かに、事実として言葉にすること。その上で、相手が共感してくれたなら「ありがとうございました」と言って去る、相手の共感を得られなければ「ご理解いただけなくて残念です。以上です」と言って、やはり静かにその場を去る。

希望退職とはいえ、実際は解雇に近い形で上司から決断を迫られ、これまで培ってきた実績も自信も失いかけていたAさん。こんなひどい目にあった、と被害者になることもできるし、こんな惨めな思いをさせられたと、相手を加害者にすることもできたでしょう。

でもAさんは、相手も自分も責めることなく、自分自身の思いを言葉にすることで、自分の誇りを失わず最後まで対等な姿勢を保つことができるのだと、ロールプレイにチャレンジした後に実感したと言います。

アサーティブな姿勢とは、そんな極限の状況の中でも自分を大切にすることを忘れず、心の中の本当の思いを適切に言葉にできること、なのかもしれません。ロールプレイのお手伝いをしながら、Aさんと一緒に思わず泣いてしまった私ですが、彼女の葛藤と前向きな姿勢を目の当たりにしながら、たくさんの勇気をいただくことができました。

どんな時も自分に対する誇りを失わない。
それを私も覚えておきたいと思います。