2019/6/28 森田栄子

「戦いをやめる」という選択肢

こんにちは。アサーティブジャパン認定講師の森田栄子です。

 

少し前の話になりますが、夫の顔の目立つところに突然直径1.5センチ程のこぶができたことがありました。

本人に痛みはなく、診てもらった医師にも「こぶの中身は汗なので心配いりません」と診断され、ひと安心。切除を勧められ、夫は医師から紹介状をもらって帰宅しました。

 

ところが本人はなかなか病院に行きません。

「病院で切除してもらったら」と繰り返し言っても、

「大丈夫、今度行く」「わかってる、来週」「今日は疲れてる」

の繰り返し。友人や親戚に指摘されても「大丈夫」と笑うだけ。

そうやってのらりくらりで2年もの月日がたちました。

 

彼の顔をみるたびにどうしてもこぶに目が行ってしまう私は次第にイライラしてきて、「どうして病院に行かないのだろう」心の中でため息をついたり、「切除するのが怖いんでしょ」と夫をからかってみたり。

 

こんな時、私がついやってしまいがちなコミュニケーションのクセがありました。

・「夫って、こういう人」と、心の中でため息をつく。

・その半面、「私がこだわりすぎ」「大したことじゃない」「むきになるのはおかしい」と、自分の気持ちを「取るに足らないもの」として片付ける。

 

ついやりがちだったこのクセ、もうやめたい。

まずは自分の気持ちに正直になって、相手にもちゃんと向き合ってみよう。

そう思いなおしました。

 

こぶについては悪化することはないそうだから、心配しているわけではないのです。

ではなぜこんなにいやな気持ちになるのだろう?

よくよく考えて見えてきたのは、過去のトラブルや悲しかった記憶でした。

 

「大丈夫、わかっている」と相手に言われるたびに、過去に私が頼みごとやお願いをしてもなかなか理解してもらえなかったときのこと、何度伝えても「わかっている」と言われては同じことの繰り返しで悲しくなったことを、

「あの時も、この時もそうだった」

と、過去を思い返しては怒っていたのです。

 

「自分の怒りを相手のせいにして責めない」

という、アサーティブトレーニングのテキストの言葉が浮かんできてはっとしました。

 

これから穏やかに仲良く暮らしたいと思っているパートナーなのに、「あなたのせいで」私の感情が不本意な方向に動いていく、悪いのはあなた、あなたの行動が変わらないからだ。と、自分のイライラを相手のせいにしていました。

 

自分の感情は自分が責任を持とう。相手を攻撃するのではなく、自分のできることは何だろう?

そう考えたときに、ようやく光が見えてきた気がします。

戦いを続けていたのは私のほうで、だから私がやめることもできるのだと。

 

今、私にできることは、これ以上自分の要求を相手に押し付けないこと。

 

「早く病院に行ったら?」と言うのはもうやめにして、彼の気持ちや言い分は否定せずに十分に耳を傾けよう。

自分が感じていた正直な気持ちもごまかさずに認め、そのうえで「どうするかはあなたが判断して決めてほしい」と伝えることにしました。

 

自分の怒りの原因が理解できたことで、相手との向き合い方が変わりました。

 

時間をかけて小さなストレスを積み重ねたのは私の責任だけれど、相手への期待や、理解されたいという願いなどパートナーとしての思いがあったことも言葉にできました。また、話し合いの中では、彼が病院に行く気になれなかった理由がわかり、私としても彼の気持ちを理解することができました。

(後日談ですが、病院に行くかどうかの判断を彼に委ねた私は、それ以来不思議とこぶのことがあまり気にならなくなったのです。

その後、驚いたことに次の休日に夫は行動を起こしました。切除手術は7針も縫う大変なものでした)

 

対立構造に陥ったときに簡単にあきらめるか、攻防戦を続けるかの二択ではなく、向き合って話すことができたのは、相手との関係において大きな変化でした。

また、自分にとって重要なことを相手を責めずに伝えることができたことも、パートナーとしての新たな一歩となりました。