最近ご縁があって、外資系の企業の人事の方と社内のコミュニケーションの課題についてお話をお伺いする機会が立て続けにありました。最近増えてきた、ハラスメント予防やメンタルヘルスの一時予防に関するコミュニケーションの課題は、どちらかと言えば上下関係のはっきりした旧来の日本型組織でよく見られることです。「立場が上」の上司が「立場が下」の部下に、(ハラスメントになることなく)相手を尊重しながらはっきりと注意をする必要性については、上下関係のある組織において管理職に共通した課題のようです。
ところが最近は、上下関係をむしろ排除した"フラットな"組織の中でのコミュニケーションの課題が注目されるようになってきました。肩書や力関係がそれほど明確ではない組織、社員の関係がフラットであり、管理職の肩書があったとしてもそれほど意味をなさない組織などで、実は「ものが言いづらい」という問題が起きているのです。
従来の日本の組織はいくつもの階層に分かれ、上下関係が明確であり、上司が部下を指導するというヒエラルキー型です。上司が部下に対して「相手を尊重しながらもきちんと叱る」という場面で、アサーティブの持つノウハウが大変役に立ちます。「立場でものを言う」ことは、その立場の人が腹をくくって、言いづらいことを言い、嫌われることを覚悟で伝えることを含んでいるからです。その意味で、これは「簡単」、なのです。
ところがフラットな組織では、立場の上下がないために、かえってモノが言いづらくなっているというのです。
フラットな組織でのコミュニケーションの課題は大きく分けて二つあります。一つは、友だち同士のように率直に言い合える関係であるにも関わらず、肝心なことが言えない、という課題。親しい関係であるがために、余計に注意をしづらくなっているケースです。もう一つは、独立した対等な関係であるために、お互いの専門性に踏み込めず、会議の場で誰も発言しないという課題。いずれにしても、立場の上下がないために、お互いに踏み込みあえなくなるケースです。
欧米式のフラットな組織のあり方を日本に導入することは、大いに賛成なのですが、日本の伝統的なマインドを払しょくすることなく組織形態だけを導入することには、大きなリスクが伴うのだということを、深く考えてしまいました。上下関係があるからこそ、実は言える場面がたくさんあるのですよね。上は上なりに、「上司だから仕方がない」と腹をくくって話さざるを得ず、部下も「自分は部下だから仕方ない」とあきらめがつくことがあるわけです。
ところが上下関係がない場面では、本当の意味でお互いが自律した「個」として、対等に率直に、建設的な形で意見を述べていかないと、業務の進行、及び組織の成長につながっていかない。「相手にどう思われるか」「場の空気を壊さないか」「関係が悪化するのではないか」という怖れに振り回されていては、本当の意味で成長することができない。アサーティブに、自分の意見を堂々と伝え、相手の意見をきちんと受け止める覚悟とマインドがあってこそ、フラットな組織を日本という場で運営することができるのかもしれません。
たとえ対立しても、一時的に関係が悪化しても、それでもお互いを尊重しながら言うべきことをアサーティブに伝えることを、組織のメンバーの一人一人が"腹落ち"して取り組む必要があるのでしょう。
アサーティブなマインドとスキルは、フラットな組織でこそ必要なのかもしれません。メンバーそれぞれが、本当に自立したアサーティブな人間であること。そんなことも、これからはご提案していきたいと思います。