#5
つたわるノート

誰かのせいにしている限り、本当の問題は見えてこない書き手:森田汐生(アサーティブジャパン 代表)

対人関係がうまくいかなくなる時、つい心の中で考えてしまうことがあります。
「私が攻撃的(受身的、作為的)になるのは、あなたがそうさせるからだ」ということです。

・相手がはっきりしない、だから私は責めたくなる
・相手が話に耳を傾けない、だから私は何も言いたくなくなる
・相手が私のことを見下している、だから私も仕返ししたくなる

こんな風に、自分の行動や態度は相手のせいであると、心の中で相手を責めたことはないでしょうか。コミュニケーションで自己責任を持つということは、自分の言ったことには責任を持つ、言わなかったことを誰のせいにもしない、と言い換えることができます。相手が悪い、自分が悪いという単純な結論ではなくて、何が問題なのか、どうしてうまく伝わらないのか、どうしたら建設的な方向に進めるのかを、もう一度振り返って深く考えてみよう、というアプローチのことでもあります。

とはいえ、自分も相手も責めないことを、心の底から納得するのはなかなか難しいこと。コミュニケーションがうまくいかなくなるのは「あなたのせいだ」と思いたくなるというのは、ごく自然なことだからです。

問題は相手だと思っていれば、本当の問題に目を向けなくてもよくなります。誰か別の人のせいにしていれば、自分がそれ以上深く考えなくてもよくなるのですね。

本当の問題とは、何でしょうか。
単にコミュニケーションの問題なのかもしれません。もしかすると、価値観の違いの問題かもしれませんし、組織の制度や法律の問題かもしれません。更に言えば、社会の中の差別や偏見、しくみのゆがみの問題かもしれないのです。

アサーティブが1960年代から70年代にアメリカで大きく発展したのも、人権擁護や差別をなくしていく運動の中で、「これはおかしい」と声をあげて、社会を変えていく目的があったからでした。「白人が悪い」「男が悪い」「〇〇が悪い」という安易な答えを出す方向にいくのではなく、もっと大きな視点で、私たちに「どっちが悪い」と責めあいをさせる社会の問題そのものと向き合う姿勢が、アサーティブを、個人のコミュニケーションのスキルにとどまらず、社会を変えていく力(フォース)として機能させていったのだと思うのです。

これからも、私自身もう一度心の姿勢を正して、この課題に向き合っていきたいと思います。