④「上司とは喧嘩ばかり。でも自分が変わることで、相手も変わった」

④「上司とは喧嘩ばかり。でも自分が変わることで、相手も変わった」

医療・介護関係の組織で働くSさん(60代男性)は、攻撃型(ドッカンパターン)の上司に対し、負けず嫌いの性格ゆえに同じく攻撃型で対抗していました。アサーティブのことを知り、最初は「上司とのバトルに勝つ方法」を学ぶつもりで受講したSさんでしたが、受講を繰り返すうちに変化が訪れます。

みんなの受講データ

  • 初回受講時期:2014年4月
  • これまで受講した講座
    基礎講座、アサーティブカフェ、応用講座、ステップアップ講座、アドバンス講座、特別講座

「喧嘩の売り買い」で問題は解決しない

上司とのコミュニケーションに問題がありました。一言で言うと、「バトル」ばかりの関係でした。上司はいきなり感情的に怒り出すような人で、みんな萎縮して話せなくなることが多々ありました。そのせいで退職するメンバーもいたほどです。

私自身も朝からいきなり呼ばれて怒鳴られたりもしました。私の場合は、喧嘩を売られたように感じていて、一歩も引かずその場で言い返してしまう、そんな事態になっていました。しかし言い返しても何も問題は解決しない。解決する方法はないのかと探していたんです。


そんな折、2014年にたまたま出席した研修でAJ代表の森田さんの話を聞く機会がありました。アサーティブとは何か、コミュニケーションのクセや伝え方について、座学と隣の参加者とのワークを通して学びました。そこで、自分のコミュニケーションパターンは攻撃的だと分かったんです。これがきっかけで、森田さんの講座に出ようと思い、基礎講座に申し込みました。実はこの時、講座では「上司とのバトルに勝つ方法」を教えてもらえると思っていたのですが...。

伝え方のクセを直すには時間がかかる。
でも、諦めない

基礎、応用講座と続けて受講し、怒りや批判にどう対応するかを学ぶうち、「喧嘩に勝とうという自分の態度はどうも違うな」と思うようになりました。喧嘩には喧嘩ではだめ、と気づいたんです。

具体的に言うと、自分が誰かに批判された時、その批判が自分に当てはまらなかったとしても、感情的にならず、そうではない、と気持ちを込めた言葉で返すことができていなかったな、という気づきです。普段は冷静にしていたつもりだが、感情的な相手には感情的に返してしまう自分がいました。


講座は、トレーナーが丁寧に自分のコミュニケーションのクセを指摘してくれて、濃密で勉強になりました。批判してきた上司役に返答するロールプレイでは、「普通の会話に持っていこうとしているけど、顔が喧嘩をするぞという表情をしている」「感情や動作、目つきが厳しい」といったフィードバックを受け、「まだだめか...」と、何度も繰り返しました。


冷静な時は自分が攻撃的だと認識はしていたのですが、いざロールプレイになると瞬間的にそうした認識を忘れ、「自分が正しい」と思い込んでしまう。その思い込みをぐっと抑えるトレーニングをやりました。

ただ、アサーティブなコミュニケーションに切り替えるのに、年齢のせいもあり、すごく時間がかかりました。講座の翌日に、「昨日習ったことをやってみよう」と試しましたが、うまくいかない。ならばまた講座を受けよう、ということを繰り返してきました。頭で分かったことが自然に言葉になるには時間がかかるんですね。


基礎講座も応用講座も、ロールプレイのテーマはずっと「上司とのトラブルにどう対応するか」でした。受講者がお互いのコミュニケーションのクセや改善点を指摘しあったり、みんなのロールプレイを見てだんだん理解が深まっていきました。


ひたすらトレーニングを繰り返し、なんとかできるようになるまで3年くらいかかりました。まだ100%ではありませんが、カチンとくる回数が減ったのは確かですね。


ある時、「すっと」出てきたアサーティブな言葉

上司とは今は普通に話せるようになりました。きっかけは数年前、組織の経営状況が良くなかった年です。年末に仕事納めの挨拶に上司が来た時にふと、自分から、「専務、経営的に赤字の年で大変でしたね」と、本当にふっとそんな言葉が上司に向かって出たんです。


アサーティブでいうところの相手の状況、気持ちを理解するという言葉がすっと出てきた。上司の方からも、「そうなんだよ〜」という返事が自然に出てきた。それまでは、そういった自然な会話のやり取りはなく、事務的な挨拶のみだったのに...。しかし、その年末は、「大変だったね、お互い」という雰囲気になりました。最後に、どちらからともなく手を握り合ったんです。「お互い頑張ろう」と。


私は、上司に対して「経営はすべて専務の責任だろう」思っていましたから、語気や目線の強さに、そうした態度が出ていたんだと思います。なので上司も敏感に感じて感情的になっていたのかもしれません。今思い返すと、上司の追い詰められた状況への自分の理解が足りていなかったのかもしれない、と気づきました。


上司への労いの言葉が言えたのは、自分でも本当にびっくりしました。アサーティブができたというより、あらっ?という感じ。少し時間がたって、ジワジワと、これってアサーティブかもしれない、と思いました。やった、できた!という感覚でもなく、「相手を理解する」とは、こういう気持ちなのもしれない、という不思議な感覚でした。


その後、上司からはたまに厳しいことを言われても、すっと返すことができ、日常会話ができる状況です。結果的に相手も変わったような気がします。初めは相手を変えようとしてたけど、私が変わったことで相手も変わったのかもしれません。

初回の受講から、アサーティブなコミュニケーションが自然に出てくるまで、1年8ヶ月かかりました。もう少し日常的にできるようになりたいので、その後も講座を受け続けています。

アサーティブは、登って終わりの山登りとは違うと思っています。アサーティブの道のりは、たとえ順調にうまくいかなくても、トコトコと歩き続けていくという感覚なんです。


いつかは、勤務先の病院の職場のスタッフに教えたいと思っています。みんな、患者さんへ一生懸命接してストレスがたまりやすく、職員同士の関係がギスギスしやすいので。少しでもそうした現場の人間関係を良くすることができればと思っています。


ストーリー⑤「勝ち負けではなく、会話と交渉を続け、あきらめずに伝えられるように」を読む