伝え方のヒントブック

学習編:
言葉以外のメッセージが与える影響

言葉以外のメッセージが与える影響

態度がいちばんものを言う

相手が伝えようとする話の中身については問題ないけれども、「そんな態度、とらなくてもいいのに」と感じるときはありませんか。


「やって当然でしょ」というように、一方的に何かを頼まれたとき。
「これくらいどうしてできないのかしらねえ~」と、チラッと横目で見られたとき。
うつむいてオドオドしながら、必要以上に「申し訳ない」オーラを出されたとき。


そんな相手の態度に、イライラしたり嫌な気持ちになったり、逆に申し訳なくなったり。

そんなふうに感じるのは、私たちの言葉の中身よりも、態度や振る舞い(ボディランゲージ=体が語る言葉)が、メッセージの本当の意味を雄弁に語ってしまうからです。


特にやってしまいがちなのが、言いづらいために回りくどい言い方になってしまうことです。また、強すぎる「申し訳ない」態度は、相手の心に必要以上の罪悪感を与えてしまいます。まっすぐはっきりと、率直に伝えたほうが、相手も罪悪感に苛まれないで、すがすがしく受けとることができます。


私たちは、相手の言葉そのものよりも、言葉と一緒に示す態度や声の調子のほうを印象深く受け止めてしまう傾向があります。つまり、「ありがとう」というメッセージを聞いたとき、私たちは「ありがとう」というメッセージに伴う、表情や態度(視覚情報)、声の調子(聴覚情報)の中に、相手の本当の心を読んでしまうということです。「ありがとう」と言われて、それが心のこもったものなのかそうでないのかは、言われた側はすぐにわかります。


とすれば、態度や振る舞いについて、どのようなことに注意したらいいのでしょうか。


  • 伝えたいことはなるべく堂々と、自信をもった態度で伝える
  • 居丈高でもなく卑屈でもなく、対等な姿勢で、相手の顔を見ながら落ちついた態度で伝える
  • 誠意をもって、気持ちに合った言葉を選んで伝える。

これが、アサーティブなコミュニケーションをするときの基本的な態度になります。こうした態度が、相手への信頼感や安心感を生むのです。

言葉と態度を一致させたほうがよい

日本人と比べて、欧米人はボディランゲージの表現が豊かです。
では、私たちも欧米人のようにジェスチャーを大きくしたほうがいいのでしょうか?


ノンバーバル(非言語の部分)の態度や振る舞いに気をつけるとは、必ずしも大げさなジェスチャーをするということではありません。欧米ではボディランゲージは自然と出てくるものなので、彼らは言葉と態度が一致したジェスチャーをよくしています。困っているときはとても困った顔をし、驚いたときは本当に驚いた表情で両手を広げてみせ、怒っているときは怒った顔で腰に手を当てて立ったりします。


そのような文化に触れていない日本育ちの多くの人は、わざわざジェスチャーをつける必要はありません。ここで言うアサーティブなボディランゲージとは、私たちが伝えようとしている「言葉のメッセージ」と私たちの「態度のメッセージ」を一致させるということです。


たとえば、「絶対大丈夫です、任せてください」という言葉を、不安げに目を伏せて伝えたら、相手は「本当に大丈夫?」と不安に思うはずです。「大丈夫」と伝えたいのであれば、「大丈夫」という態度を示すことが必要です。自信を持った落ち着いた態度、ゆっくりはっきりとした口調で伝えれば、相手も安心します。


職場の後輩に対して大事なことを注意したい場合、気を遣って申し訳なさそうに微笑みながら「○○はしないでね」と言っても、ことの重大性は伝わりません。反対に、相手を頭ごなしに怒鳴ったり説教口調になったりする必要はもっとありません。
この場合は、真剣な顔をして相手の目をしっかり見ながら、「私は○○にたいへん困っています。これからは本当に気をつけてください」と、落ち着いた低めの声ではっきりと伝えます。


言葉や伝え方をアサーティブなものにしていくと同時に、自分がとりがちな態度や振る舞いについても、アサーティブなものに近づけていきましょう。

普段から自分の振る舞いを意識する

それではアサーティブな態度や表情とは、具体的にどのようなものをいうのでしょうか。


まずは姿勢。
しっかり両足で立って(あるいは座って)バランスをとり、背筋を伸ばします。必要以上に肩に力が入っているようなら、肩の力を抜いてリラックスしてみましょう。姿勢が堂々としていると、気持ちもオープンになってきて、自然に自信が出てきます。


目や視線についてはどうでしょう。
「目は口ほどに……」といわれるように、見上げたり見下げたり、斜に構えたりするような視線は、相手を構えさせてしまいます。ものを頼むときや、話の内容をはっきり相手に伝えたいときは、相手の目をまっすぐオープンに見て話します。


距離や座る位置も大事です。
相手が誰か、どのような内容なのかによって、座る位置や距離を工夫します。上司に何かをしっかりと伝えたいときは、上司の目の前に立つか座るかします。後輩に注意をするときなどは、まっすぐ座ると相手を萎縮させてしまう可能性があるので、90度くらいの角度で座ったほうが相手も楽に聞くことができるようです。


家庭でパートナーに何か言いづらいことを話すときは、キッチンのテーブルで真正面に座るよりもソファで隣に座って横顔を見ながら、のほうがいい場合もあります。


要は、相手が話し合いの最初の段階で心の扉を閉めてしまわないように、相手にもコミュニケーションをとってもらいやすいような距離や座り方を工夫してみよう、ということです。


話すときの表情はどうでしょうか。
アサーティブに話すとは、常にニコニコ微笑んでいることでしょうか。いいえ、違います。表情でいちばん気をつけなければならないのは、真剣な話をしたり相手の依頼を断ったりするときに、ニコニコしすぎないことです。


相手に言いづらいことを言うとき、相手の依頼やお願いごとを断るとき、私たちは無意識のうちに、相手に「私のことを嫌わないでね」という振舞いをしてしまうことがあります。
後輩に注意するときに、わざとタメ口になったり、くだけた口調になったり、相手に必要以上に気を遣ったような態度になったり、反対に不安そうな表情で微笑んでしまったり。


そうした態度や振る舞いをすることで、相手と対等でなくなり、最終的には相手からの敬意を失ってしまうことになるので気をつけましょう。真剣な顔をすることで伝えたいメッセージを補強することもできるのに、真剣になるべきときにヘラヘラ笑ってしまっては、言葉でのメッセージが帳消しになってしまいます。

無意識の振る舞いは不安の現れ

不安なときに無意識に出てしまう癖にも注意が必要です。私たちは自分の不安を解消するために、話し方にだけでなく態度にも、さまざまな癖をもっています。


発言しようとすると口元に手を持っていく人もいます。口元を隠すようにしながら発言するので、声がはっきり届きません。中年以上の男性の方に多いのが、相手の話を聞くときに無意識に腕を組んだり足を組んだりすることです。腕を組むのは防御的な態度に映るので、これも相手の心を開くのとは反対の結果を生んでしまいます。


それ以外にも、よくある癖として、ペンをくるくる回す、足を揺らす、体を前後に揺らす、あごを出してうなずく、イスの背に斜めにもたれる、指差しする、などがあります。


いずれも本当に伝えたいメッセージよりも、その癖の印象から相手はあなたの言葉を判断します。気づいたら注意してもらうよう、身近な人に頼んでおくとよいでしょう。

学習編:コミュニケーションは「意識化」と「トレーニング」