伝え方のヒントブック
学習編:
信頼関係がないとなかなか伝わらない
ダイバーシティ、多様性、価値観の広がりの中で
かつて職場の人間関係は、時間をかけて作るものであり、飲みニケーションや社内のイベントを通じて「自然に」生まれるものでした。しかし近年は、組織がフラット化、多様化、複雑化、デジタル化する中でお互いを“深く知る”機会が減少し、関係作りよりも、結果を出し、効率を上げることのほうが優先されるようになりました。その結果、人間関係は、「自然に生まれる」ものではなく、「意識し努力しないとできないもの」に変わってきました。
人間関係ができていないとどうなるでしょうか。
感情的になりそうな問題や対立を生むリスクのあることがらに対して、それほど関係のできていない相手に対して何かを批判したりネガティブな意見を伝えたりすると、「自分のことを知らないくせに、文句だけ言う」と、相手はこちらの意図や理由よりも、言葉尻に反応して反発してしまいます。私たちは「何を言われたか」よりも、「誰に言われたか」ということのほうが重要だからです。どんなに正しい批判であっても、それが信頼関係のできていない相手からの批判であれば、相手は素直に受け取ってくれません。
「耳の痛いこと」は、信頼できる相手から投げられるものであれば、真摯に受け止めようと思うものなのです。
日頃の小さなコミュニケーションを積み重ねる
信頼関係を築くためには、日ごろからコミュニケーションを意識して人間関係を築いていくことが、遠回りのようで一番確実な道となります。飲み会やイベント参加という「オフ」の場だけではなく、業務の中で、相手との信頼関係を築く努力を、私たちはしていく必要があるでしょう。
相手は自分とは価値観も考え方も異なる人です。だからこそ、「言えばわかる」というスタンスではなくて、「伝わるように話すにはどうすればよいだろうか」と考える癖をつけることが大切になります。同時に、実際の“伝え方”をスキルとして身につけておくことで、対立する場面でも自信をもって適切に対応することができるでしょう。
日常的な信頼関係を築くために、自分からできることはたくさんあります。
- 挨拶や声かけ
- 雑談や世間話
- ポジティブな意見や感情を伝える(ほめ言葉の伝え方)
- ネガティブな意見や感情を伝える
特に最後の「ネガティブな意見を伝えること」は、伝え方を間違うと関係が悪化する危険性があります。関係悪化のリスクを回避しようとすると、自分の言いたいことを飲み込んでストレスを抱えることになり、ストレスや怒りがたまると、些細なことで攻撃的になって感情を爆発させることにもなりかねません。
アサーティブな伝え方を身につけておくことで、難しい人間関係の場面でも自信をもって対応することができるのです。
相手を理解しようと思って「聴く」
もう一つ、「伝える」だけではなく、自分と異なる他者である相手の言い分を「聴く」ことも、アサーティブな態度です。
価値観や意見が対立する場面で、こちらの正当性を主張するために、私たちは攻撃的になるか、反対に沈黙するか、という行動になりがちです。そうではなく、そうした対立する場面であっても、相手を理解しようと努力し、双方の利益のために対話の方向性を探っていくことが、アサーティブの重要な側面なのです。
「聴く」といっても、黙って聞くだけでも、質問するだけでもありません。相手を「理解しようと思って聴く」ことが、アサーティブな聴き方の原則です。
相手は本当に何を思っているのだろうか、相手の言いたいことは何なのだろうかと理解しようとすることで、双方が満足する結果につながっていくからです。
相手に反論しようとして聞くと、相手は必ず防御的になります。あなたの言葉の理由を私は本当に知りたいのだ、あなたの言い分を理解したいのだという思いで向き合い質問すれば、相手の心は開いてきます。私たちがどのような心のスタンスで相手に質問しているのか、相手を本当に理解しようとしているかどうかは、相手にズバリ伝わっていると思って間違いありません。
自分には自分が見ているストーリーがあるように、相手にも相手側のストーリーがあります。相手のストーリーに真摯に耳を傾け理解して初めて、対等に話し合う土台ができるのです。