伝え方のヒントブック

学習編:
要求・お願いをするときの3つのコツ

要求・お願いをするときの3つのコツ

話しているのに、なかなか伝わらない

自分ではちゃんと言っているつもりなのに、相手になかなか伝わらない、という体験は誰にでもあると思います。相手に「言えばわかる」ではなく、相手が「わかるように話す」。そのためには、こちら側の伝え方を工夫する必要があります。自分の要求や提案を、率直に相手に伝えるために、アサーティブにはどんなコツがあるのでしょうか。


一つ事例から考えてみましょう。
最近入ってきた若手スタッフのA君。仕事を一人で抱え込みがちで、なかなか自分に相談をしてくれません。


わからないことがあったら相談してほしいのですが、「どう?大丈夫?」と聞くと、いつも「はい、大丈夫です」という答えしか返ってきません。本当はもっとコミュニケーションをとりたいし、わからないことがあったら自分に聞いてほしいのですが、一人で抱え込んでいるために仕事の進み具合がわからず困っています。A君にそのことを伝えたいと思っているのですが、どんなふうに伝えたらよいのでしょうか。


 仕事中のA君の隣に座って話すことにしました。
 「A君、仕事、わからないことないですか?大丈夫?」
 「はい、大丈夫です」
 「一緒にやっている業務だけど、困っていることないですか」
 「特にありません、大丈夫です」
 「わからないことがあったら、ちゃんと聞いてくださいね」
 「はい」


残念ながら、このままでは、A君との話し合いは平行線に終わりそうです。こちらの側の、「わからないことがあったら相談して」というお願いを、A君は重要なこととして理解しているとは思えません。心の中で「みんなに迷惑をかけてはいけないから、もっと頑張らなくちゃ」と考えて、更に一人で一生懸命やってしまうかもしれません。この状態が続くと、A君がなぜ相談してくれないのかわからず、さらにイライラが募ってきそうです。

自分は何に困っているのか、具体的な事実を説明する

A君からの相談がないことで、自分は具体的に「何に」困っているのでしょうか。
A君はまだ業務に慣れていないため、一生懸命がんばってチームに迷惑をかけないようにしていて、そのために抱え込んでいるのかもしれません。A君が一人で抱え込んでいることが、チームにとっては“困る状態”であることを、私たちは説明しなければならないのです。


困っていることを伝えるにあたっては、
「A君のせいで業務が滞っている」など、相手を責めるような説明の仕方はNGです。事実はなるべく客観的に、“起きている状況”を具体的に伝えます。
「仕事の進ちょくについての相談がないために、自分としても全体の仕事の進み具合が把握できなくて、…実は困っているんだ」
という感じに、相手を責めることなく、“起きている問題”を具体的に伝えます。

自分の伝えたい要望は的をしぼる

次に、自分が相手に伝えたい「要望」は何かを考えます。
自分の要望を相手に伝えたいのであれば、そもそも「自分の要望とは何なのか」「相手に変わってもらいたい行動とは何か」を、具体的にすることが必要です。
この場合の山本君への要望は、何でしょうか。


A君にお願いしたいのは、「大丈夫?」「困ってない?」と尋ねることではなく、「仕事の進み具合についての報告がほしい」。それが要望の的であるはずです。
だとすれば、
「A君には、仕事の進み具合について、定期的に報告をもらいたい」
と、はっきり伝える必要があります。


相手に気を遣いすぎるあまりに自分が求めていることがわからなくなってしまうというのは、よくあることです。しかし、こちらのお願いや依頼を具体的に伝えない限り、相手にわかってもらうことはできません。
また、相手への要望で「ちゃんとやってほしい」「定期的に報告して」「しっかりやって」「主体的に取り組んで」などの抽象的な表現が使われることがありますが、こうしたあいまいな表現も、こちらの要望と相手の理解のギャップを大きくする表現です。
なるべくならば、定期的な報告についても、もう少し絞る必要がありそうです。


たとえば、
「週に1回、金曜日の午後に15分程度、1週間の仕事の進ちょくについて、口頭で確認するのはどうだろうか」
などだと、もっとわかりやすいかもしれません。

相手の立場を理解する

A君には、A君なりの事情や理由があるはずです。なので、自分の主張をするときには、“相手にも相手の考えがある”“言葉にしていなくても、何らかの事情があるだろう”ということを忘れずに、それを会話の中に、「やり取りとして」、含めていきます。


「A君は、もしかすると、完成していないと提出できないと思っているのかな」
などです。


相手も自分と同じように、気持ちや考えを持った同じ人間です。A君なりの理由があったのだろうと考えて、A君の言い分や理由に耳を傾けることはとても大切なことです。


「僕はこう思うけど、A君はどう思う?相談しづらい理由があるなら、教えてもらえないかな」
「週に1回進ちょく確認をするというやり方はどうだろうか、できるかな?」


相手の気持ちや言い分に十分に耳を傾ける姿勢があってこそ、本当に誠実な対話のやり取りが始まります。決して自分が「正しい」と思う意見を、相手に飲んでもらうために伝えるのではない、ということを、覚えておいてください。

実践編:「No」を上手に伝えるコツ