伝え方のヒントブック

実践編:
耳の痛いこともしっかり伝えるコツ

耳の痛いこともしっかり伝えるコツ

一方的な「ダメ」は伝わらない

職場の人間関係では、注意・指導のしかたが相手のモチベーションに大きな影響を与えます。相手の気持ちを尊重しつつも、「これはダメだ」ということを、相手のモチベーションを下げることなく適切に伝えることは、必要不可欠なコミュニケーションスキルです。とはいえ、相手が年上だったり、専門分野が異なったり、プライドの高い人であったりなど、人間関係の中でこちらの意見をはっきりと伝えることが難しい場面も多々あります。


言わなければならないと思いながらも、「相手が嫌な気持ちになるのでは」「相手にはプライドもあるし、言い方によっては相手がそっぽを向いてしまう」「思い切って言ったら委縮してしまった。気を遣うと遠まわしになってしまう。どうしたら率直にいうことができるのだろう」、などの悩みを、現場からよく聞きます。


また最近では、「新人に厳しいことを言って辞められたら困る」「パワハラと訴えられたらどうしよう」と怖れるあまりに、新人や若手スタッフに対してはっきりとダメ出しをすることができないという話は、どこの現場でも聞こえることです。


自分の意見を一方的に伝えて攻撃的になるのでもなく、関係悪化を怖れて自分の主張を飲み込むのでもなく、自分も相手も尊重しながらしっかり主張していくスキルとして、アサーティブな注意や指導はどのようなものなのか、これから具体的に説明していきましょう。

否定から入らない

事例を一つ考えてみましょう。
部下のBさん。日ごろから熱心に新人の指導に当たっているのですが、時折指導が厳しすぎると感じることがあります。Bさんを尊重しながらも、新人への対応がよくないことを伝えたいと思います。どのように注意したらよいでしょうか。


いきなり「あんな指導じゃダメじゃない」と頭ごなしに始めるのは、攻撃的。相手は自分のことを全面否定されたと感じて、心の中で反発するか委縮します。


「Bさんも大変だよね」と部下の言い分を聞き続けるのは、受身的。Bさんの新人指導の問題は解決されないままとなります。


「パワハラは止めましょう」と社内一斉メールを流すのは、作為的。伝わってほしい当の本人にメッセージは伝わらず、部署の雰囲気が悪化していきます。


アサーティブでは、注意や指導をする際に二つのゴールを目指します。一つは、こちらの主張が理解され、何らかの解決につながること。
もう一つは、伝えた後のBさんとの関係が悪化することなく、むしろお互いの信頼関係が生まれるということです。

相手のモチベーションを下げることなくアサーティブに指導するための原則は、
“相手のよいところやがんばっているところを、まずは認める”
ということです。


誰もが自分なりに一生懸命仕事をしています。たとえBさんのやり方がおかしいと感じていても、いきなり批判から始めることは、決して相互の納得のいく話し合いにはつながっていきません。


“相手という人間はOK、行動については改善を求める”
これが鉄則です。


具体的には、
「新人がこの半年でぐっと力をつけてきたよね、Bさんのフォローが行き届いているからだと思うよ。いつもきめ細やかな指導をしてくれてありがとう。
ただ、ひとつ気になっていることがあって」
という感じで話を始めていきます。

「起こっている問題」に対する自分の誠実な感情を開示する

注意をする目的は何でしょうか。
相手に非を認めさせて、自分の正当性を証明することでしょうか?


そうではなくて、起こっている「問題」を話し合って、一緒に問題解決していく、ということでしたよね。


この場合の「問題」とは何でしょうか。
相手の行動や態度のために、実際に起きている組織上(チーム内)の不利益のことです。
この場合は、「新人がBさんを怖がって、相談すべきことを相談しづらくなっている」などです。「相手が悪い」というところから離れて、具体的に、そしてお互いが合意できる本当の問題点を提示することが、相手を注意するときの最初の出発点となることを覚えておいてください。

その上で、その問題に対する自分の感情を、攻撃的でない形で言語化します。


「他の新人がBさんに相談しづらい状況になるのは、まずいと思う」
「Bさんと新人との関係が悪化することを心配している」。


この時に、「みんなが心配している」というように、「みんな」を主語にした伝え方はしません。あくまで起きている事実に対する自分自身の感情を、誠実に、率直に、表現することを忘れないようにしてください。

悪いのは相手だけなのか ――自分の責任はどこにある

責任は相手(部下のBさん)だけにあるのでしょうか。実は、問題をもっと早い段階で的確に介入しなかった、あるいは、Bさんに新人指導を任せっきりにしていた、などの責任は、自分にもあるのです。


問題の責任は、自分と相手と50%ずつ、くらいに考えてみましょう。その上で、自分の側の50%の責任に100%向き合うことを忘れません。

ですから、注意をする際でも、自分の側の責任を認めた言葉を必ず加えます。


「私ももっと早く、きちんと伝えればよかったですね」
「以前から気づいていたのですが、なかなか伝えられなかったことを反省しています」
「○○さんが頑張っている様子を見て、言い出しづらくて今になってしまいました」


など、自分の責任を認める気持ちも誠実に言葉にすると、ずっと対等な立場で話し合いを進めることができるでしょう。


相手を一方的に責めることではなく、自分のいたらなかった点も認め、「お互いさま」という立場から話を進めることで、相互の信頼関係を築いていくスタート地点に立てるのではないでしょうか。

実践編:怒りで相手を責めないためのコツ