伝え方のヒントブック

学習編:
職場の差別発言にどう向き合うか

自分も相手も尊重する“心の姿勢”が大切

「グレー」に近いハラスメントへの対応は難しい

法律や職場の制度が整備され、ハラスメント対応の窓口が設置されても、いわゆる“空気”に相当する偏った見方、“常識”から生まれる無自覚の差別発言や飲み会での冗談、揶揄などは、アサーティブに対応するのが難しい領域です。


「ハラスメント」という言葉の認知が広がり、「ハラスメントは許されない」という認識も広がってきました。制度や法律が整い、「言葉のNG集」の類もあるようです。
とはいえ、実際に目の前にいる相手の言動に腹を立てた時、上司や先輩からきつい言葉を投げられた時、後輩や新人が人間関係で傷ついている場面に遭遇した時の、その場の対応は簡単ではありません。どう対応してよいかわからないまま、私たちは相手を攻撃するか、沈黙するか、見て見ぬふりをしてしまいます。


限りなく黒に近いハラスメントであれば、対応できなくとも誰かに相談することが可能でしょう。ところが、グレーゾーンにあたるハラスメントでは、私たちは「これはどうなのかな」と迷い、「これくらい許容されるんじゃないか」という判断の難しさや、対応の難しさのために問題が放置されるケースが多く、その結果、深刻な問題に発展してしまうように思います。


どんなに気をつけても、どんなに意識しても、誰かを傷つけてしまうことや傷ついたと感じることはあるでしょう。異なる価値観の人間が働く職場であるからこそ、葛藤や対立は避けられません。
傷つくこと/傷つけることを恐れて人間関係に距離を置くのではなく、自分の考えや気持ちを率直に伝え、ぶつかったときには率直に話し合いながら、人間関係の問題をコミュニケーションで解決するすべを知っておくことが必要なのではないでしょうか。

小さなことに声をあげる勇気を

近年、最近では、男性から女性へのセクハラだけではなく、同性同士への発言もセクハラに相当するようになりました。また、“LGBT”という言葉の認知も広がる中で性的指向や性自認(SOGI)の理解も進み、職場の研修でも取りあげられるようになっています。

とはいえ、日常の中で発せられる差別発言に対して適切な対応をしない、または気づかないでいると、職場の士気に大きな影響を与えてしまいます。


下の図を参照ください。アサーティブなコミュニケーションや人間関係は、ピラミッドの一番下の段に相当します。日常の中でお互いを尊重したコミュニケーションを取っている、あるいは取れる関係ができていることが、ハラスメントを生まない組織風土を作っていくのです。


「話に便乗しない」ことを、サラリと伝える

ここで、対応の難しい、“ちょっとした”差別発言に対する対応策について考えましょう。


事例:会社の飲み会で同僚が、若い女性部下に対して、「〇〇さんって、意外と女子力高いんだね~。そのお弁当、彼氏にも作ってあげているのかな。え?いないの? じゃあ、早く捕まえないと、残っているのはバツイチだらけになるよ~」と話しているのを耳にしました。


あなただったら、どうしますか。


  1. 「セクハラだから、言うべきじゃない」とはっきり言って、飲み会の席が一瞬凍る
  2. 何も言わないで黙って席を立つ
  3. 社内一斉メールで、「飲み会のセクハラはやめましょう」と流す
  4. アサーティブな対応をする

この状況に対して、アサーティブな対応の基本は二通りあります。

一つは、なるべく早いうちに自分の意思表示として、「その話題に便乗しない」ことをさらりと伝えることです。
「それってアウトだよ。その話題、やめとこうよ」
責め口調にならないように、対等に、率直に、「さらり」がポイントです。


もう一つは、発言者にアプローチして、理解者になってもらうことです。発言した相手の気持ちや“悪気があったわけではないかも”ということを認めつつも、公の場で発言することの影響力の大きさを理解してもらい、今後は発言を控えてもらえるように協力を求める、というやり方です。


いずれにしても、対応は簡単ではありませんが、差別発言に対して「私たちは無力ではない」ことを知っておくだけでも大きな一歩になるでしょう。また、実際に言葉に出して伝えることは、勇気もスキルも必要となりますので、ロールプレイなどを使って何度か言葉に出して練習されることをお勧めします。

学習編:やっかいな感情と上手につきあう