伝え方のヒントブック

実践編:
怒りで相手を責めないためのコツ

怒りで相手を責めないためのコツ

「怒り」は表現してもいい?

人間の感情はよく喜怒哀楽で表されます。その中でも、喜(喜び)哀(悲しみ)楽(楽しみ)は比較的表現してもいい感情とされますが、怒(怒り)について表現することはあまり好まれません。


怒りは攻撃であるとされ、怒りをむき出しにすることは大人げないと思われるために、私たちはできるだけ怒らないように、あるいは怒らせないように、怒りの感情をなるべく抑えようとします。


怒りの表現は、性別によって捉えられ方が異なります。女性が怒りを表すと、「ヒステリック」とか「怒った顔は似合わないよ」などという、ネガティブなレッテルや揶揄の対象となりがちです。


男性の場合は、怒りを表現しようとすると、相手への威嚇や攻撃的な態度となって表れることが多く、それを避けるために自分の心の奥深くに怒りをしまいこむか、お酒やタバコなどの依存物質で怒りを抑え込みます。


しかしながら、人間の感情は生理現象であり、頭で「消えてなくなれ」と命令しても簡単にはなくなりません。抑え続けられた怒りの感情は、何かのきっかけで外に出てくるか、自分の体の内側を蝕むようになっていきます。


あなたはどのように表現しがちでしょうか。
ついカッとなって怒ってしまう攻撃型、「怒ってはいけない」と自分の怒りを否定する受身型、それとも怒りを皮肉や嫌味に変えて、相手にリベンジしようとする作為型。

いずれにしても、自分も相手も尊重したアサーティブな怒りの表現からは離れてしまいます。自分も相手も尊重した、怒りの表し方とは、どのようなものでしょうか。

頭にのぼった血をさげる

怒りの感情をもつことと、攻撃的な表現をすることとは違います。

怒りは体に沸き起こる「自然な」感情です。怒った気持ちを否定する必要はありません。「私は、今怒っているんだな」と心の中でつぶやいてみることで、怒りに振り回されることからちょっと離れることができます。


ただし、頭に血が上った状態では、落ち着いて話し合いはできません。そうならないために、クールダウンできる方法をいくつか持っておくことをお勧めします。
腹が立った気持ちを聞いてくれる友人を持つ、安全に発散できる場所を持っておく、など。運動する、紙に書く、大声で歌うなど、体の中のエネルギーをいったん放出することが役に立ちます。


また、小さな怒りは、なるべく「その場で」対処しておきましょう。小さなストレスやイライラの積み重ねが、後の大きな爆発の原因となるからです。「たいしたことはない」と自分の気持ちをごまかさないで、小さなうちに言葉にします。伝える時はなるべく簡潔な言葉で、相手を責めないで伝えます。


その時に、「あなたのせいで腹が立つ」「あなたが〇〇だから怒っている」と、自分の怒りを相手のせいにしないこと。自分の怒りは自分のもの。相手のせいだと怒りをぶつけてしまうと、人間関係は悪化するだけです。


怒った気持ちは、その裏に様々な感情が隠れています。「疲れている」「心配」「期待していたからがっかりした」、などです。そうした「裏の感情」も合わせて言葉にすることで、相手も耳を傾けやすくなって、お互いの理解が進みます。


怒りは“取り扱い要注意”の感情であり、表現するのも難しければ受け取るのも難しいものです。とはいえ、適切に表現することができれば、恨みを抱えたり相手を傷つけたりすることなく、問題解決の方向に持っていくことができます。

怒りをどのように表現するかは自分が選ぶことができる

自分の怒りをアサーティブに表現するにはどうしたらいいのでしょうか。ケンカを売ることなく、我慢して自分がストレスを抱え込むことなく、怒っていることを「情報として」伝えるためには、どのように伝えたらいいのでしょうか。


怒りを伝える「前に」、必ず時間をとって、頭にのぼった血を下げておきます。血が上った状態では、落ち着いてアサーティブな会話はできません。時間をおくなり、場所を変えるなどして、まずは自分の頭を整理します。


自分に問う質問は、次の三つです。


  • 起きていることは何で、問題は何か
  • 自分はどう感じているのか
  • 自分は何を望むのか

怒りを表現する「前に」、この3点を自分の中で整理して下さい。


怒りを言葉にする際に、「むかつく」「いい加減にしてほしい」「ひどい人だ」「許せない」というような、攻撃的な怒りの表現は、アサーティブではありません。怒りは、相手にぶつけるものでも恨みを晴らすものでもなく、自分の状況を適切に理解してもらうための“情報”だからです。


相手を責めない表現として、「腹が立っている」「怒っている」と言うのもありますが、職場では「残念です」「困っています」「まずいと思う」などの表現がよいかもしれません。


怒りの裏にある感情も忘れないように。「期待していた分、すごくがっかりしたんです」「この事態は非常に心配で、このままではまずいと思います」という感じで、表現するようにしてください。

前向きな怒りになるように、常に未来に向かって要望を出す

「腹が立つ!」というような、怒りの気持ちを伝えっぱなしでは、相手はどのようにしてよいかわかりません。


表現する時は、次の二点を含んで表現しましょう。

一つは、自分が“何に対して”怒っているのか、具体的な理由を描写することです。


「会議で発言の最中にさえぎられること」
「書類の提出遅れが、1か月以上続いていること」


など、相手の行動や腹が立つ状況について、なるべく客観的に簡潔に述べていきます。

その上で、「だから私は〇〇を望んでいる」という、自分の要望も合わせて伝えます。
前向きな怒りの表現は、何かを改善したいという“未来に向かう”“変えられるもの”に対して向けられるものです。なので、「あの時、こうしてほしかった」と過去についての要求はしません。


 「だから、発言は最後まで話を聞いてほしいのです」
 「これからは、遅れる時には締め切りの前日までに連絡がほしい」

などです。

ネガティブな感情を感じることはOKですが、その“伝え方”には工夫が必要です。なぜ、何のために自分の怒りを表現したいのか。より良い職場環境を作りたい、信頼関係を築きたいからこそ、前向きな気持ちで表現することを心がけていってください。

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